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にはスポーツの試合でいえば全部負けてしまいます。もしも医学が命を救う、死を防ぐことが目標なのであれば、全部失敗なのです。そういうことがわかっていても、医師は延命というゴールを設定するのです。
医学は19世紀から20世紀にかけて急速に発展を遂げ、その中で科学者としてはどんな病気でも治す、あるいは治せないまでも命を長らえさせるのがゴールでした。そうすると、21世紀には医学がもっと発達しますから、これまで以上にそこまで悪くなっても死なないという人が出てくるようになります。だんだんと病人はふえる、しかも世話のやける複雑なさまざまの合併症をもっている病人がふえるわけですから、いまの医師だけではどうしようもなくなります。しかも厚生省は医学生の数を削減しています。ひとつは医師がふえればふえるほど医療費が高騰しますが、それを調整するためでもあります。
また、2025年には日本人は世界一高齢者の住む国、つまり65歳以上人口が全人口の25%を越える国になっているわけですから、ある意味ではこれらの方はみんな悪いところを1つや2つはもっているということになります。しかも高齢者の中でも75歳以上の層がもっとふえるというわけですから、死ななければならない患者さんが生き延びさせられるということに加えて、人口の4分の1が何らかの故障も示すわけですから、大量の老人患者がふえてきます。つまり、医学が進歩するということは、病人がふえるということです。
21世紀は病人の世紀といえるかもしれないのです。当然いまの医療と21世紀の医療は変わっていかざるをえなくなります。現にアメリカでは広瀬先生のお話にもありましたようにマネージド・ケアといって、一括して心筋梗塞はここまでしか支払わない、ヘルニアの手術はここまで、急性虫垂炎、そけいヘルニアは外来でというようになっているわけです。それ以上保険は出してくれないから、ここまでしかしないというようになっている。日本でも実はそれが始まっているのです。厚生省が定めた設置基準を満たす緩和ケア病棟もしくはホスピスに入ると1日3万6,000円が支払われますが、それは何をやってもやらなくても払うというわけです。
ですからホスピスを営利的に経営しようと思えば、まったく何もしない、検査も投薬もしない。しかし必要なことはやらなければならないという考えてあれば、それをやるだけ実収入は減るという具合です。ホスピスの良心に委ねて厚生省は1人当たり1日3万6,000円を給付しているわけです。こういう考え方は日本でもいろいろな病気に及ぼうとしていますから、アメリカで行われているマネージド・ケアが日本でも現実に進んでいるといえるわけです。
そのように数も質も医療システムも変わってくる中で、どうすればQOLを高めることができるか、これはみなさんの問題でもあるわけです。いままでは医師がやりたいと思うとおりにすれば、看護婦さんもそのまま聞いてくれた。このごろは看護婦さんもいいたいことはいわしてもらうという姿勢をとるようになりましたから、看護の側からの発言もある。それでもアメリカなどに比べると20年は遅れているのですが。
そういう状態の中では、医療に参与する医師、ナースはもちろん、コメデイカル、宗教家、MSW、あるいはボランティアの役割も変わるということです。システムが変わるということは当然役割も変わります。これは血圧測定ひとつを考えてみてもわかります。患者のために何がいいかというゴールを設定すればいい。そしてそれは患者から学べばいい。
これから先は、チームとして患者のQOLを高めるにはどうすればいいかに議論を集中していただきたいと思います。

 

手を握る、肩を抱く―心の触れ合う看護を

柿川 一人の患者さんをみるのにチームケアをせざるをえない状況になっていますし、そうなると一人一人が自立した意見を出し合って、その中

 

 

 

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